欲しいもの
昨日から泣いてばかりだ。
何でもないのに泣いて、泣いて。
猫が死んだと聞いたときも、犬を看取ったときでさえも、涙の一粒さえ溢れなかったのに。
薄情な奴だ、と内心思った。
ときどき、自分に振りかかった不意の出来事を、俯瞰しているような、他人事のように冷めた目で見つめているような感覚になることがある。
それこそ、物語を読んだり、ドラマを見ていたりするような。
当事者ではなく、読者、もしくは視聴者のように眺めている。
そうして、たぶんその場に相応しいだろう振る舞いをし、相手に見られても構わない私の姿を演じる。
予想だにしなかった出来事に取り乱している風を装いながら、でも、頭の中は妙に冷静で、というより、冷めていて。
馬鹿らしいと思いつつも、きっと望まれるだろう正解の私を、もしくは不正解ではない私を、私は取り繕っている。
本当のことを言いたい。
でも、聞いてほしい人はいない。
本音を口に出すのは、とても怖い。
怖いから自分の殻に閉じ籠って、不完全な言葉の残骸を無理矢理飲み下して、自分の中で終わらせる。
誰かに知ってほしい。けれど、知られるのは怖い。
誰かに触れたい。触れられたい。
触れたくない。触れられるのは怖い。
人を知りたい。知るのは怖い。
選ばれたい。欲しがられたい。必要だと言われたい。そこにいていいと、そこにいてほしいと、認められ、求められたい。
一人ではないのに満たされない。
飼い犬は私を見てくれるけれど、それじゃあ足りない。足りない。
もっと欲しい。
足りないものが欲しい。
手に入らないものが欲しい。
欲しい。